熊本県水俣市 協立クリニックは、水俣病の診断・治療・リハビリ、神経内科、精神科、内科を専門としています。

神経内科リハビリテーション 協立クリニック

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水俣病関連のお知らせ

2011.05.01

水俣病患者救済に関する提言

2011年5月1日、水俣病公式確認55周年を迎え、水俣病に深くかかわってきた医師6名の連名で、「水俣病被害者の救済に関する提言 とりわけ健康障害について」という文書を環境省に提出しました。
以下全文です。

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水俣病被害者の救済に関する提言
  とりわけ健康調査について
  
  2011年3月11日の東日本大震災に端を発した東京電力の福島原発事故による放射能汚染の未曾有の拡大が現在進行中であり、現場作業従事者を含め幅広い住民に健康被害が起きることが広く指摘されている。健康被害の究明が今後大きな課題になることは明らかであり、全世界が注目する中で東京電力・原発業界はもちろん政府・関係機関の責任が大きく問われることになるであろう。

  私たちはこれまで水俣病に取り組んできた医師として、過去に世界中の人々に水銀の健康被害の深刻さと環境問題の重要性をアピールしてきた水俣病の経験をもとに、東京電力、原発業界、政府・関係機関が、汚染源の早期排除、継続的に広範な地域で環境中の放射能を測定し迅速に公表すること、予防原則に基づく住民の早期避難、全住民に対する長期にわたる健康管理等の施策を実行する重大な責任があることを指摘するものである。

  ところで、2009年制定された「水俣病被害者の救済および水俣病問題の解決に関する特別措置法」(以下特措法)は「救済を受けるべき人々があたう限りすべて救済されること」を掲げている。私たちもそのことを願っている。しかし、残念ながら、現状では救済から取り残される被害者が存在するという危惧を私たちはこれまでの経験から抱かざるを得ない。

  環境省は、熊本県の「不知火海沿岸の住民等の健康調査について(平成16年)」の具体的な提案を否定し、「汚染がなくなっている今日の時点で」「現在の症状を調査するだけでは過去に排出されたメチル水銀との因果関係を解明する有効な調査とはなりえない」とし「効果的な疫学調査を行なうための手法の開発を行なっていく予定」としている。

  そもそも「食品衛生法」に基づけば、「食中毒」は保健所への届出とともに詳細な調査・報告事項が定められており、水俣病が1956年の食中毒事件録に記載された時点で調査されるべき事件であった。それにもかかわらず、いまだに調査が行なわれていないのは「食品衛生法」の適切な対応を行なわなかった政府の瑕疵であり、違法行為である。時間が経過したからといって調査の責任は免れない。むしろこの違法行為のために今日のように未解決の事態があるというべきであり、このままでは、環境問題解決の教訓にすることはできない。

  不知火海沿岸におけるメチル水銀汚染は、過去に比べると低下しているとはいえ、現在も持続していることが熊本県の調査によって証明されている。メチル水銀による健康被害の症状として「四肢末梢性優位の表在性感覚障害」の存在とその所見の特異性が指摘されてきた。環境省は裁判のたびに批判され続けた「水俣病の認定基準」を変更せず、この症状に該当する人々を水俣病行政認定以外の様々な救済措置(1986年特別医療事業・1992年総合対策医療事業・1995年政府解決策・2010年ノーモアミナマタ訴訟和解・2009年「特措法」)を実施してきた現実があり、その人数は驚くなかれ数万人に上っている。

  「特措法」の救済対象地域以外の住民や、救済対象出生年とされる昭和44年12月以降に生まれた方々の中に、これまで救済対象となった症状を持つ方々がいることを、私たちは自らの診療経験からだけでも多数存在していることを報告してきた。
  新潟水俣病においては、昭和41年12月以降出生の被害者の数は現在掌握されていないが、今後一定数の申請が予想される。

  現在、救済対象地域内にあっても情報や偏見のために申請をためらっている方々が多数存在し、全国各地に移住した汚染地域出身者への情報提供も不十分であり、こうした状況を踏まえ、関係行政機関の一層の努力が求められている。
  また、メチル水銀には、より低濃度での精神運動機能などへの健康影響の存在も指摘されてきており、実際に環境省を含めて東北地方においてその調査・研究がなされてきた。水俣や新潟周辺地域においても同様の健康影響が存在しており、より曝露の少ない人々への影響も懸念されるものであり、それらに関する調査も必要である。


以上の現状を踏まえ「救済を受けるべき人々があたう限りすべて救済されること」を実現し、「より曝露量の少ないメチル水銀の健康影響をあきらかにする」ために以下提言する。そして、この提言の実現のために、私たちは可能な限りの協力を行なう決意であることを付言する。

① 少なくとも、2004年(平成16年)熊本県が提案した不知火海沿岸住民47万人を対象にし、新潟においては新潟県が安全宣言を出した昭和53年以前に阿賀野川流域に居住していた人たちを対象にした、「食品衛生法」に基づく「喫食調査・症状調査」と「医師の検診」による健康調査を直ちに実施すること。
② 「食品衛生法」に基づき、メチル水銀汚染魚介類の過去の流通ルートを徹底して解明し、水銀汚染の可能性のある地域の全容を明らかにし、健康調査の対象地域を正確に定めること。
③ 熊本水俣病・新潟水俣病の県外居住者への情報提供を徹底すること。
④ メチル水銀の精神心理機能への影響を含めた、低濃度メチル水銀曝露に対する影響をも念頭においた調査を検討すること。
⑤ 健康調査にあたっては、これまで水俣病にかかわる差別および心的外傷について配慮を行い、且つ行政の責任についての見解を明らかにすること。
⑥ 健康調査の企画段階から、当事者および行政と当事者が推薦する医師・研究者による体制を作ること。
                  

                  2011年5月1日
                  板井 八重子  くわみず病院附属くすのきクリニック(熊本)
                  関川  智子  沼垂診療所(新潟)
                  高 岡  滋  神経内科リハビリテーション協立クリニック
                  戸倉  直実  東葛病院附属診療所(東京・千葉)
                  津田  敏秀  岡山大学大学院環境学研究科
                  藤 野  糺  水俣協立病院

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